2012年8月28日(火)更新
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 2012年7月28日(土)、外部生も参加して大いに盛り上がったヨハネ研究の森のサマースクールは、無事に最終日を迎えることができました。
 この5日間のテーマは「江戸時代」。
 私たちは「なぜ江戸を学ぶのか」ということから話がはじまりました。

 2011年3月11日に起きた東日本大震災。地震によって生み出された大津波は、誰も想像もしていなかったような事態を引き起こしました。家々を飲み込み、ビルを根こそぎなぎ倒し、押し寄せる瓦礫にたくさんの人が飲み込まれていく。電気もガスも水道も物流もストップし、いつまでも続くと思っていた私たちの平穏な日常はいともたやすく崩れ去ってしまいました。
 ヨハネ研究の森ではこの大震災を経て、文明と災害、今後私たちはどう生きていくのかということを、この1年以上継続して考えてきました。
 電気に依存した文明的な生活、自分では食べるものも着るものも作り出さずに、商品を買うことによって生活をまかなう分業化された生活のスタイルは一体いつからはじまったのでしょうか。「文明開化」と呼ばれる江戸から明治への転換点、文明開化以前の江戸の人たちは一体どのような生活をしていたのでしょうか。次々にわき起こる疑問、江戸の人々の生活から現代の私たちが学ぶべきこととは何なのか、これがサマースクールの大きなテーマでした。

歴史の読み方
横瀬 今回、サマースクールでいろいろな江戸についての映像を見たり、国立歴史民族博物館や江戸東京博物館に行ったりということをしてきました。博物館は、好き勝手に物が展示されているわけではなく、研究者たちが「古文書」を吟味し、「歴史的な事実」に基づいて当時の姿を描いているのです。
 「古文書」というものは、本当のことが書かれているとは限りません。その古文書を書いた本人が「本当のこと」と思って書いていたとしても、それが本当かどうかは分からないでしょう。歴史家はその古文書を他の様々な情報と照らし合わせて、ある「解釈」をするんです。
 ヨハネ研究の森で、みなさんが映像や人の話を「要約」するとき、「ただ単に要点をまとめる」のではなく、話されたことにもとづいて自分なりに考えて、「つまり、こういうことだよね」と要約するでしょう。歴史家は、古文書に対して、それをしているんです。
 従来の歴史学では、「文字で書かれたもの」だけが「資料」であるという考え方が強いけれど、実際には文字以外の資料もたくさんあるんです。浮世絵や屏風も資料。浮世絵は、恐ろしいほど精密に描かれていて、海外から来た人たちが皆驚いた。今の研究者は、浮世絵や俳句も「資料」として、「江戸」を描くときの材料にしています。
 われわれもそれをある仕方で受け止める。そうすると、100人いたら100通りの「解釈」の仕方があるでしょう。博物館に行って、展示を見て、「へー、そうなんだ」で終わるのではなく、自分なりに「これはこういうことなんじゃないか」と想像力を働かせるんです。それが歴史を「読み取る力」です。
唯一正しいとされる教科書のデータを丸呑みして、テストで吐き出すというようなお勉強から脱却して、本当に充実した学習のしかたに触れていきましょう。それがヨハネ研究の森の学びです。

一人ひとりが「歴史家」

 歴史をとらえるということは、「虹」を見るようなものです。「虹」は無数の水滴に光が反射して七色の橋が見えるけれど、近づいて見たら水滴しか見えません。
 それぞれの博物館が「江戸」というものを無数の「資料」にもとづいて描いているけれど、展示されている資料だけを見たら、「江戸」は見えてこない。彼らが描こうとしている「江戸」を見るためには、見る方が自分で想像力を働かせなければ見えてきません。虹を描くのは、自分なのです。
 「これは一体何なのか」、資料に向き合い、自分なりに「ことば」にする。そのことを通して、「自分なりの江戸」のイメージが描かれてくるのです。これは普通の学校で勉強する歴史とは全く違う勉強の仕方です。普通の学校なら、展示されている資料を覚えてしまえば、それで満点が取れるでしょう。ヨハネ研究の森の歴史の学び方はそれとは違います。もっともっとダイナミックです。
 自分で想像をする。推測して、仮説を立てて、確かめてみる。それが学びの醍醐味でしょう。だから、夏休みに何度も博物館に行って、何度でも見てみてください。ただ見て、「はい、そうですか」で済ますのではなく、「本当にそうなんだろうか」、「これは一体何なのか」とイメージをふくらませて見てくださいね。



国立歴史民族博物館
 千葉県佐倉市にある国立歴史民族博物館、「日本の歴史がすべてわかる」がこの博物館のコンセプト。
 寺子屋体験コーナーなどもあり、江戸の読み書きそろばんを実際に体験することもできます。私たちは、ここで「江戸時代」に触れることを通して、それぞれの「江戸」のイメージを描いていきました。
    所在地 〒285-8502 千葉県佐倉市城内町 117
    電話: 043-486-0123


江戸東京博物館
 両国の江戸東京博物館は、「感動する博物館」を運営方針に掲げ、失われつつある江戸東京の歴史遺産を守るとともに、東京の歴史と文化をふりかえることによって、未来の東京を考えようとしている。多くの外国人が江戸東京博物館へとやってきます。海外が注目する「Edo」とは一体何なのでしょう。
    所在地 〒130-0015 東京都墨田区横網1-4-1
    電話: 03-3626-9974