暁星国際小・中・高等学校 Gyosei International School
ヨハネ研究の森コース St. Johon's School
人類史 〜歴史は移動と定住で作られる〜
2009年12月18日(金)
ヨハネ研究の森コース2009年度研究発表会が2010年3月6日(土)・7日(日)に行われることが内定しました。
今回のテーマの柱は「人類史」。私たち人類はどこから来て、何をしてきたのか。そして、これからどこへ向かっていくのか。それはどこか知らないところで起きた出来事の寄せ集めではありません。私たち自身の生き方につながっていく物語を検討していきます。
「最も効率のよい教育は、『ヒトの理性の歴史を理解し、見えてきた未来に向かって、私たち一人ひとりが指針を見出せるような工夫を凝らした物語を自ら作る努力をする』ことです。」
これは5年前に東京工業大学の丸山茂徳先生がヨハネ研究の森に送った
「ヒトの歴史と未来、9つの物語」
というプロジェクト案の書き出しです。このプロジェクトでは、丸山先生が地質学や地球惑星科学を研究する中で、人類の歴史を地球の変化や気候の変化と結びつけて、人類の9つの物語として描き出そうという計画が書かれています。 私たちは、この丸山計画を一つの手がかりに、「人類史」という壮大な歴史のドラマにチャレンジすることにしたのです。
NHKスペシャル「日本人はるかな旅」
人類の歴史を検討していくにあたり、NHKスペシャル『日本人はるかな旅』という映像を観てセッションを行いました。 日本人の祖先は、シベリアでマンモスを狩っていた! DNAと考古学から日本人の起源を解き明かします。
第一集 マンモスハンター、シベリアからの旅立ち
日本人の顔の形を科学的に類型化していくと、日本人はアジアの北方から南方まで様々な顔のタイプが入り交じっていることが分かりました。これは、アジア各地から渡来した人々が複雑に混じりあって日本人という民族ができたことを示しています。
日本に人がいたという形跡が見え始めるのは、2万年前の氷河期。縄文人は、そのときにやってきた人々の末裔なのです。
縄文人のルーツは東南アジア方面にあるといわれてきましたが、DNAの研究によって全く新しい事実が浮かび上がってきました。
縄文人の骨から遺伝子を取り出し、調べてみると、その多くがシベリアのブリヤート人のDNAと一致しました。
ブリヤート人は今、シベリアのバイカル湖周辺で生活しています。村人の顔は日本人によく似ています。そして、そこにあるマリタ遺跡は、2万3千年前の氷河期のシベリアに人類がいたという衝撃的事実を示していました。
遺跡からは人骨と首飾り、石のナイフも見つかりました。文化が存在していた証拠です。このマリタ遺跡で見つかった石器と同じ形の石器が日本でも見つかったことで、DNA分析だけでなく、考古学的にも日本人の起源がシベリアからきたと証明されました。
彼らはどんな生活をしていたのでしょうか。なぜ極寒のシベリアにわざわざ移住して行ったのでしょうか?
シベリアは2万3千年前、短い夏の間だけは平原が広がっていました。そして、そこには数多くの動物がいたのです。毛サイやマンモス、洞穴ライオン。それらの動物を追って、シベリアへ移住していったのです。
しかし、ヒトの背丈ほどの牙を持ち、巨大で獰猛な性格のマンモスをどうやってしとめたのか。
発掘された石器やマンモスのミイラから、槍で水辺に追い込んでマンモスを倒していたと推測されます。
マンモスの骨をも貫いた細石刃。動物の骨とかみそりの刃のような石を組み合わせた画期的な武器。彼らは高い水準の知能を持ち、数々の知恵を生み出して、シベリアの過酷な環境を生き抜いていました。
シベリアからの脱出
ロシア科学アカデミーが行った調査で、2万年前に大きな環境変化があったことが判明。気温が十度近く一気に下がったというのです。この寒冷化でシベリアは極地的な砂漠化を起こしました。草原が消え、動物たちが食料を求めて移動を始めました。それを追って、人々も移動していきます。その中に日本へ移動していく人の流れがあったのです。 北海道で、二万年前に人がたき火をした跡が発掘されました。そこから、シベリアで発見されたのと同じ細石刃が見つかりました。日本各地の遺跡の分布から、彼らが瞬く間に日本列島に広がっていったということが分かりました。 気候の変動で、植物が生える地域が変わる。それによって、動物が移動し、人類も移動して行く。日本人の祖先も例外ではなく、環境の変化や気候の変動に対応して、知恵と工夫を生み出し生き抜いてきたのです。
移動と定住はなぜ起こる
横瀬
今日見た映像をそれぞれちゃんと要約しておいてくださいね。人間も動物も食べ物を求めて移動している。しかし、あるとき突然、定住する。移動しなくなる。もちろん、病気になったときや子どもを産んだときはそうなるし、それだけでなく何か作業を継続的に行う場合も生き物は動かなくなります。例えば渡り鳥でも巣をつくる作業が始まれば移動しなくなるでしょう。
移動する目的は生きるためにえさを求めたり、外敵から逃げるためだけではなく、もっといい環境で生きたいときも生物は移動します。水が今より手に入りやすいところや気候のいいところに人間は移動する。
これはサマースクールの時に配布された本ですが『地図で読む人類・激動の10万年史』と『科学で見る! 世界史』。冬休みにこれを移動と定住ということに注目して読んでみてください。いつ頃、なぜ、どのように移動したのか。375年(ミナゴろし)、ゲルマン民族大移動、なんて年号と言葉だけ覚えるようなつまらない歴史の勉強をしなさいとは言いません。どうして移動したのか? 何が原因なのか、自分なりに描いて見てください。自分なりに根拠を明確にしていくことが大切です。
その際、たとえば『科学で見る! 世界史』の第一章「DNAでたどる人類の旅」というようなところ。ここはきちんと読んでおいてください。DNAに基づいて、人類の移動を追っている。この移動は、なぜ起こったのかそれぞれ考えてみてください。
それから、第二章の「発明発見が歴史を変える」。私たちが今当たり前のように使っている電気や電話、自動車といったものも誰かが発明したり発見したものです。
さっきの映像で「細石刃」という石器がありましたが、あれもすごい発明でしょう。シベリアで発明されたものが、人が移動することで様々な地域に広がっていった。数字や文字というものも人の移動と一緒に広がっていって、私たちが今使っている日本語のようなものができあがっていくきっかけになっているのです。
そして、第三章に「病が世界を動かす 病原性物流行史」というのがある。病気が伝染するというのも、人の移動と深く関わっています。誰も移動しなければ、病気が流行ることもないでしょう。けれど、感染症で一つの文化や文明が消滅してしまうようなことが起こっている。これも移動の問題なのです。
『地図で読む人類・激動の10万年史』の方もそういう観点で読んでみて下さい。いつ誰がどうしたか、ほとんどの歴史の本はそういうことしかでてこない。けれど、それは結果において起こったことです。重要なのは、なぜそれが起こったのかですよ。なぜそれが起こったのか、そういう目でとりあえず、この二冊に目を通しておいてほしいということです。
そして、「定住」という言葉。移動していくけれどもどこかで人間は定住を始める。定住をしない状態でもやはり夜寝たり、子供育てたり、必ずある一定期間定住するということがある。「移動と定住」という観点で今後歴史の本を読んだり、映像を見たりしてください。
生物が生きる上で、移住と定住は両輪のようになっています。植物は根を生やすから移動しないように見えるけれど、花粉や種をまき、移動と定住をしている。私たちも移動と定住を繰り返しています。移動だけでなく、定住するということも検討してください。