東京工業大学の地惑セミナーレポート
2009年12月9日(水)



 「朝まで生テレビ」で激論を交わした丸山茂徳先生と江守正多先生が再び対決をするという情報を聞きつけ、12月9日(水)に、東京工業大学で開催された「地惑セミナー気候変動シリーズ第三回」に約10名のヨハネ生が参加してきました。



地惑セミナー(地球惑星セミナー)

 東京工業大学の「地惑セミナー」は、様々な分野のスペシャリストを招き、大学3年生から大学院生を対象としたレベルの内容で開催されています。
 今回の、気候変動シリーズでは、「地球温暖化」をテーマにして行われています。地球温暖化は、人間の活動によって発生した二酸化炭素などの温室効果ガスによって起こると考えられ、今後も「温暖化」が進むという考えが主流です。
 しかし一方で、今後地球気候が「寒冷化」に向かう主張するという研究者もいます。
 この「寒冷化」説は周期的な太陽活動の変動によって引き起こされるといわれています。
 今回のセミナーでは、「温暖化」と「寒冷化」をそれぞれ主張する第一人者である、丸山茂徳先生(東工大地球惑星科学専攻教授)と江守正多先生(環境研温暖化リスク評価研究室長)が講演されました。 前回の一回目・二回目では先生方が一回ずつ講演を行い、今回の三回目では、お二人が討論形式で講演されました。
 この第三回目の地惑セミナーにヨハネ生も参加させていただいたというわけです。
 専門用語が飛び交う科学者同士の議論、二時間という限られた時間ではありましたが、大いに刺激を受けて帰ってきました。



温暖化? 寒冷化?

江守  こんばんは。江守でございます。よろしくお願いします。僕は、IPCC派の代表というわけではなくて、今回は僕自身の理解をお話していこうと思います。 この間の研究によって、温室効果ガスが増えることで、放射強制圧が何ワット増えたか。これはもう明確に分かっています。僕が、自分の主張をパワーポイント一枚で説明しろと言われたら、このグラフです。黒が観測、赤が予測。二〇世紀の百年間どのように温度が上昇したかを表しています。この図を見ると、将来に関しても強い寒冷化要因がなければ温暖化すると言えます。
 しかし、この図を前回見せたときに「シミュレーションが合いすぎているのではないか」とおっしゃる方がいました。確かに、観測に合わせてるところというのも多少ありますが、「パラメータ化」という不確実性があります。
 シミュレーションのモデルを作るときに、現在の現象をどの程度再現されるかということを意識して作っています。パラメータを合わせれば結果をコントロールできるとおっしゃる方がいますが、気候予測のモデルは要素が多すぎるので、一つ二ついじったところでおおまかに現在の気候を再現できるということはありません。
 また、エルニーニョなど複雑な現象を再現できるようなモデルでないとIPCCは信用してはくれませんので、百年や千年といった長いタイムスケールの観測データとシミュレーションの結果を合わせていくということもしていて、その過程でパラメータ化されていなかった要因が見つかってくるので、シミュレーションはどんどん正確になっています。このシミュレーションから気候は温暖化に向かうと予測されているのです。



丸山  地球の気温は雲が圧倒的に支配しています。水蒸気か雲か。雲の量が1%変化するだけで、気温が1℃変化する。雲の影響力はCO2の比ではありません。
 では、その雲を作る要因は何か。スベンスマークの仮説から、宇宙線、太陽活動、磁場、火山灰といったものがあげられています。
 地球の気候の近未来の予測は、地球の気温を圧倒的に支配している雲を作る要因に着目して太陽、磁場、火山噴火、温室効果、ミランコビッチサイクルなどを検討すると寒くなると予測できます。明確に太陽活動がどんどん弱くなっていて、寒冷化するでしょう。
 気候のメカニズムについては、地球磁場、太陽活動、宇宙線いろんなものが合わさっているから、一つ一つ取り出して見ても相関が見えないことがあります。精度の高いデータを集めて、そのメカニズムを解明していく必要があるのです。
 たとえば、太陽活動が弱くなっているのに、気温が上がっているのはそれ以外のパラメータが効いているからと考えられます。一対一対応ではないのです。気候の結果はたくさんのパラメータが影響しあった結果なので、そのメカニズムを理解することは非常に難しい。
 これは複雑系科学の宿命で、いろいろな人がいろいろな仮説を出して、そのどれもが否定しきれない。そうすると、何がなんだか分からなくなる。こういう宿命にあります。地球の気象の問題は、一人ひとりが関連する事象すべての専門家にならないと解けません。そのためにはまず何がベストのデータなのか。理論的背景を持つことが重要です。

 





地球温暖化問題の本質


丸山  そして、地球温暖化問題の本質は、たとえば、「2010年で11億円という税金が、全国地球温暖化防止活動推進センターで使われる」というように、国民運動防止員を育てるなんてことをするために使っていて、基礎研究にお金が回ってこないことです。地球温暖化問題は、幸か不幸か政治と結びついて、科学の質を変えるということが起きています。温暖化の問題を扱おうとすればお金が出やすいので、「マンモスは温暖化で死んだ。これを研究したい」といい出す研究者が出てくる始末。これが非常に大きな問題なのです。
 これは、江守くんに言っても仕方がないことだけれど、本当の問題はそこにあります。
 江守くんは、今回温暖化論争の決着を付けたいと単身敵地である東京工業大学にまで来てくれて、非常に勇気があると思います。みなさん拍手をお願いします。本当にありがとう。