「『夕張希望の杜』に見る『地域医療再生』とは?」
2009年6月19日


 6月19日と20日、「夕張希望の杜」で医療活動に従事されておられる、永森克志先生からお話を伺いました。先生は地域医療の未来を示され、老いとは? 病気とは? 死とは何か? 病院という非日常の世界に追いやられたものを取り戻す大切さを教えて下さいました。

2007年、夕張市が財政破綻し、同時に破綻した夕張市総合病院が公設民営の診療所として再スタートを切った。永森克志医師は、このプロジェクト「医療法人財団 夕張希望の杜」に代表者である村上智彦医師と共に参画して、入院用のベッド数を大幅に削減して患者の自宅に医師が出かけていくシステムを導入するなど、新しい地域医療のありかたを模索している。この活動はメディアでも何度も取り上げられ、ヨハネ研究の森では、特に「NHKスペシャル」を全員で観てこのセッションに挑んだ。



夕張は日本の縮図

永森 北海道夕張市は、かつて炭鉱で栄え人口は12万人もいたけれど、日本のエネルギーの主力が石炭から石油に移ってから衰退して、今は人口1万2千人、600億円の借金を抱えて、若者は市外流出して市民の約40%は高齢者になってしまいました。夕張は、2050年、40年後の日本の姿です。私はここで今、どう医療を再生するかということに挑戦しています。



まちづくりとしての医療

 行政の支援が不十分だったり、自分勝手な患者さんがいたりして、病院は苦闘しています。町全体で病院を守る取り組みが大切です。救急車が必要ではないのに救急車を呼ぶ、入院が不要なのに入院しようとする。通院が必要ないのに通院してくる。
 すると、それらを維持するためにお金はかかるし、必要な人力が使えなくなってしまいます。これでは病院が疲弊してしまいます。さきほどのNHKの映像にもありましたが、酒に酔って「精も根も尽きたぁ!」なんて言って救急車を呼んでいられたのでは、病院のほうが精も根も尽きてしまいます。夕張では、年間の救急車要請件数は、地域への呼びかけが功を奏して半分になりました。


ぴんぴんころり

 日本の平均寿命は、1920年頃40歳くらいだったものが今は80歳くらいです。歳をとってからどう過ごすかもこれからの高齢化社会の大きな課題です。
 長い間ベッドで寝たきりより、亡くなるぎりぎりまで仕事したり、家族と楽しくすごしたり。ピンピンしていて、最後にコロリと逝く。これが理想と思うんです。


予防と連携

 ヨハネ研究の森では以前インフルエンザが流行ってしまったことがあったそうですね。様々な感染病の予防の為にはやはり手洗いとうがいが一番。医学的にもきちんと証明されています。
 予防は高齢者医療でも大変重要です。病院では、これまでは病気にかかってから通院してもらい、たくさんの薬を患者さんに渡していました。だけど、ご老人の死因の多くは慢性病で、これは一度かかってしまうとなかなか治りません。むしろ予防が大切なのです。
 私たちは、歯科治療や口腔ケアをすすめています。これで糖尿病、動脈硬化、肺炎が減少するのです。慢性病は入院しても治りません。かからないよう予防することが大切なんです。


老い、病気、死

 みんなに書いてもらったアンケートでは、老いや病気や死について、自分の思いを書いてくれたのは一部で、多くは死の定義とか、難しいことを書いていました。
 老いたり、病気するとすぐに病院通い。亡くなられるのも病院のベッド。これまでは、こういうことが常識と考えられてきました。ともすると、病院というところは健康な人たちの生活には縁のない場所と捉えられていました。
 だけど、今日勉強してきた中で感覚が変わった人もいるでしょう。私たちの経験を見たり聞いたりしてもらうことで、みんなが具体的に考えて、いざというときに心構えができるようになってくれればと願っています。