ヨハネ研究の森が「週刊ダイヤモンド」に掲載されました

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 ヨハネ研究の森コースが「週刊ダイヤモンド2004年4月10日特大号」の特集記事「息子・娘を 入れたい学校」に掲載されました。
 この記事をご紹介します。






<小学生も高校生も先生も皆が自由に学ぶ「研究の森」>

 「クジラはもともと歩いてたって、すごいよな。どうしてわかったか、説明してくれる?」
 生命の進化に関するテレビ番組を見終わると、進行役の大下宏和・主任研究員が教室を見回した。 「クジラの化石に骨盤の跡があったから」と、ある研究員が答える。 「じゃあ、時系列でクジラの進化を整理してみようか?」
 「6500万年前に恐竜が絶滅して、4900万年前にパキケタスが登場して・・・」 「違うよ、パキケタスは5000万年前。4900万年前はアンビュロケタス。4500万年前がクチケタス」。 研究員の説明を黒板にまとめながら、再び尋ねる。「それぞれ、どんな特徴だった?」「ワニに似ていたよ」 「イヌみたいだって言ってたよ」。
 ここで疑問を投げかける。「イヌみたいなクジラ?」「違うよ、犬かきで泳いでいたって言ってた」。 別の研究員が「動物にたとえてたのはクジラの泳ぎ方の特徴でした」と補った。
 資料から得られた情報を理解し、自分で再構成する。そのうえで他者が同じ情報をどのように理解しているか、 相互に理解をする。このプロセスを学びの基本とするのが、千葉県木更津市の暁星国際学園に併設された 「ヨハネ研究の森コース」だ。
 冒頭のやりとりは「講座」と呼ばれる共同学習の一コマ。小学生から高校生まで全員が同じ映像を見て、 一緒に情報を整理していく。ヨハネ研究の森では、先生と生徒は「学びの共同体」。教える、教えられるの 関係ではなく、生徒を研究員、生徒とともに学ぶ先生を主任研究員と位置づけている。
 同コースは3年前、文部科学省の研究開発学校としてスタートした。初年度は8人、2年目が40人、 3年目の昨年度は70人。今春初めての卒業生4人を送り出し、あらたに30人の新入生が加わった。 生徒のほとんどが寮生活を送っている。
 ヨハネ研究の森には、時間割も学年別クラスもない。あるのは午前、午後、夜と、3〜4時間ずつ大きく 区切られた勉強時間。そして、ユニットと呼ばれる研究室だ。
 ユニットはいわばベースキャンプ。小学生から高校生までの混成で、一つのユニットに約10人が所属。 1人ないしは2人の先生が研究室を取りまとめる。大学や大学院の研究室のようなシステムだ。生徒は ユニットを拠点にそれぞれが独自の学習計画を立て、興味の深さと幅を広げていくのである。
 同コースの学びのスタイルは2つのキーワードで言い表される。「自学」と「共同学習」だ。
 「自学」と呼ばれる自習スタイルは、所属するユニットの先生と相談しながら、自分で立てた学習計画に 沿って、すべて自分のペースで学習を進めるもの。英数国理社の5科目の基礎知識は、自学用の教材を使って 一人ひとりが自分で学んでいく。
 勉強時間をどう使うかはそれぞれの自由。午前中、4時間続けて数学の問題に取り組むこともあるし、 一日中英語を学ぶこともある。すべて個別の学習計画次第。休憩を取るのも自分で決める。
 もう一つのスタイルが、前述した「講座」と呼ばれる「共同学習」だ。自学によって一定の基礎知識を 習得すると各講座への参加が認められる仕組みで、自学で身に付けた知識を人文科学、社会科学、自然科学、 情報科学のテーマごとに深めていくのが狙いだ。
 なかでも、小学生から高校生まで全員が取り組む「統一テーマ」講座は、ヨハネ研究の森の学びを最もよく 表している。
 与えられる素材は、”人物”そのもの。昨年度は大陸移動説を唱えたドイツ人の気象学者ウェゲナーが 取り上げられた。
 ウェゲナーに関する資料や映像から、彼が何者であったのか、各自がまとめる。それぞれの切り取り方は 異なる。相手の発表を理解したうえで、再度まとめる。こうした作業を繰り返して、ウェゲナーに関する 知識や考え方を広げ、一年後には彼に関する論文を仕上げるのだ。初年度はエジソン、2年目はヘレンケラーだった。
 「修士論文並みの論文を書き上げる中学生がゴロゴロといる。細切れで追い立てるのでなく、じっくりとものを 考えられる環境がいかに重要かということだ」と、鈴木久仁也主任研究員は話す。
単に”偉人”としての側面たけではなく、その人物の人生全体がテーマになる。エジソンの場合、発明家と してだけでなく、起業家の才覚もあった。幼少の頃は不登校児だった。そうした複数の側面からエジソンを とらえ直していく。

<不登校に東大狙う優等生、共通点は”浮きこぼれ”>

 「これまでは与えられた知識で決められた時間内に、要領よく結果を出せることが評価されてきた」と 話すのは、横瀬和治教務主任だ。学年別カリキュラムに細切れの時間割という従来の教育システムでは ゆっくり時間をかけて一つのことを追求するタイプの子どもは知的レベルが高くても、学校で居場所を なくしてしまう。
 ヨハネ研究の森には、そうした「従来の教育システムでは浮きこぼれてしまう子どもたち」が集まっている。 元不登校の子どもたちから東大を目指して成績はオール5だった子どもまで、偏差値で輪切りにすることは できない。”落ちこぼれ”ではなく”浮きこぼれ”。共通しているのは、学校で「変わった子」として 扱われていた点だ。
 ヨハネ研究の森では周囲の目を気にすることなく、自分の興味を表現することができる。古文書を積み上げて 漢詩を学ぶもの、博士号レベルで蛾の研究を進めるもの。逆に突きつめて考えられる興味の対象がなければ、 居場所をなくしてしまう可能性もある。
 もっとも、気になるのは進学先だ。「このコースの学びは、AO(アドミッションオフィス)入試に対応して いる」と石川教頭は説明する。従来の筆記試験ではなく、学力以外の能力も含めた総合的評価で選抜するAO 入試。実際、今春の卒業生が、AO入試で九州大学に合格している。
 じつはヨハネ研究の森コース自体もAO入試を実施している。受験生は自己推薦書と自己学習史の書類を 提出するほか、あるテーマに関する資料を読み、レポートを書く。当日はレポートを発表して、ほかの受験生が どう理解したかを理解する。そのうえで、資料の情報が本当にそうなのか検証する。最後に再びレポートを書く というやり方だ。
 「自分の理解を再構成できるか。自分以外の違う考え方を聞いたときに、理解を相互に形成できるかどうかの 観点で見ている」と、横瀬教務主任は説明する。これは入学後に各講座で繰り返して行われる学びのプロセス そのものだ。
 最初はこうした学び方に戸惑う子どももいる。だが、次第に自分から動かなければなにも始まらないことに 気づいていくという。
 スタートから4年目。ヨハネ研究の森の挑戦は続く。