「聖ヨハンナ(ヨハネ女子寮)」歳時記(ヨハネ聖歌隊)
ヨハネ聖歌隊を愛してくださった田川校長先生への感謝と共に、歳時記を記します。
ヨハネ研究の森では、コース設立後しばらくの間は歌声がありませんでした。ある日、一人の主任研究員の先生がお御堂で聖歌「あめのきさき」を歌う姿が田川茂校長先生の目に留まり、ぜひ研究員と主任研究員、卒業生や保護者の方々など皆様が集い、手を取り合って歌ったり楽器を演奏したりしてご奉仕をしなさいとおっしゃいました。そして、祈りを込めて「ヨハネ聖歌隊」と名づけてくださったのです。ヨハネ研究の森3期のことでした。
かの聖アウグスチヌスは、「よく歌う人は倍祈る」という名言を残しました。古今東西を問わず音楽は一致であり、祈りの象徴です。以来私たちは「ヨハネ聖歌隊」の活動を大切に守り継いできました。田川校長先生は、入学式、保護者会、学園祭、田川会、小学校クリスマスミサ、中高クリスマスミサ、カトリック木更津教会クリスマスマーケット、卒業式など、事あるごとにヨハネ聖歌隊を呼んで、歌う機会をくださいました。そして、いつも誇らしげに微笑んで聴いてくださったものです。
ところが、梅雨の間人々を屋根の下に閉じ込める長雨のように、長きにわたって世界中を震撼させている感染症によって、私達は様々な営みを封じることを余儀なくされました。「ヨハネ聖歌隊」の活動もその一つでしたが、長い歳月を経て久しぶりに聖歌隊活動を再開する運びとなりました。
そのきっかけとなったのは6月24日に行った保護者会でした。3年ぶりに入場規制を掛けずに、多くの保護者の方をお招きすることが叶い、何かできることはないかと考えた時、再びヨハネ聖歌隊全体で心を込めて歌おう、という声が上がったのです。遠方から足を運んでくださった保護者の皆様に向け、ヨハネ聖歌隊が一体となって、学園の歌「暁星国際学園の歌」と、カトリック聖歌「あめのきさき」を歌いました。セッションホール中に響いたのは、粒の不揃いな、けれど一つの方向にむかう、豊かで多様な歌声でした。歌を聞いてくださる保護者の方の中には、涙を流されている方々もいらっしゃいました。拙い私たちの歌で、心を振るわせてくださる方がいる。私たちはそのことに胸を打たれ、ヨハネ聖歌隊として、もっと歌に思いを込められるようにと願いました。
3年半の年月は長く、今やヨハネ生の大半が未経験者という中での、ほぼ真っ新なところからのスタートとなりました。多くのヨハネ生が、歌詞が覚えられない、音に自信がない、声を揃えることが出来ないという思いから、身体を硬直させ、楽譜に齧り付いてしまいます。そこで、ヨハンナの歌練習では「音を表現する」という原点に返りました。合唱曲「Believe」の、やさしくあたたかく、共に未来への希望に向かって歩んでいくメロディを身体中で表現していったのです。軽やかにスキップをしたり、皆で肩を組んだり、手を叩いたりしながら、踊るように歌っていきます。自然と皆の瞳には輝きが灯り、いっぱいに笑顔が広がっていきました。
私たちは歌練習を重ねる中で、ヨハネ聖歌隊の歌において大切にされてきたことがどういうことなのか、少しずつ気付いていきました。私たちが大切にしているのは、音の正確さや技術の追求ではありません。私たちは、目の前の誰かや、共に想う何かのために、想いを伝えるために歌うのです。身体をひらいて、共に同じものを見、互いの声に耳を澄ませ、目の前にいる誰かへ想いを伝えようとする時、私たちは大きな波となり、響き合うのです。
7月12日、この学園を創り、ヨハネ研究の森コースを守り、ヨハネ聖歌隊の活動を誰よりも喜び、機会を与え、応援してくださった田川校長先生がご帰天されました。床に伏せてから最期のその時までヨハネ聖歌隊のCD「未来への希望」をお聴きくださったそうです。17日に行われた校長先生の家族葬の御ミサでは、人数の関係で一部のメンバーとはなりましたが、皆様の思いを背負い、聖歌隊としてご奉仕することができました。明々と陽の光が降り注ぐ、雲一つない日でした。2001年にコースが開設して以来、先生がヨハネ生に幾度となくおことばを掛けてくださった学園のチャペルで、薫り高い白百合に囲まれてお眠りになる田川先生に向け、私たちは精一杯歌いました。この感謝が天まで届くように、田川校長先生が聞いてくださるように。また、御出棺の際には今度はヨハネ聖歌隊全員で心を込めて
「かみともにいまして」を歌いました。ヨハンナのみんなで心を込めながら折り紙で折った百合の花を手に、心を合わせて歌いました。学園内をゆっくりと一周された田川校長先生をお乗せした車をお見送りしたあと、誰もことばを発することはありませんでしたが、想いは一つだったと思います。
私たちは、田川校長先生が愛し、見守り、いくつしんでくださった「ヨハネ聖歌隊」として、共に響き合いながら、
これからも「より高く」を目指して祈りを声にしてまいります。溢れる感謝の思いと、光の子として生きてゆく決意を込めて。