ヨハネ通信

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ヨハネ研究の森ニュースレターより 「人類史のはなし(7)」

例年より短い夏休みが終わり、ヨハネ生たちも再び、
ここ矢那の森に集うことができました。

新型コロナ禍により予断を許さない状況が続きますが、
健康と安全を大切に守りながら、2学期の「学びの生活」を
より充実したものにしていきたいと願うところです。

今回は、本年4~6月に配信されたニュースレターより、
「人類史のはなし」をお送りいたします。

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 人類史のはなし ―「牧畜」と感染症―(ニュースレター第9号より)
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前回は、大地をたがやす「農耕」とともに、
家畜をそだてる「牧畜」が、私たちヒトに
大きな変化をうながしてきたことを、おはなししました。

今回は、「牧畜」によって、ヒトがかかえた
大きなわざわいのひとつであり、まさにいま、
私たちが苦しむ、感染症について、考えてみます。

◇─────────◇

人間は、動物を飼いならして「家畜(かちく)」にし、
食べものや衣類を、自分でふやす、牧畜をはじめました。

しかし、すべての動物が、人間によって
家畜になったわけではありません。

進化生物学者のジャレド・ダイヤモンドは、
家畜になった、もっとも重要な5つの生きものは、
ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマだといいます。

そのひとつ、ウマについて、なぜ野生のウマが、
ヒトの家畜になったのかを考えてみましょう。

◇─────────◇

かつて、ウマは、ヒトの重要な食べものでした。

狩りをする人間たちは、野を走る、たくさんのウマたちを、
ガケのはしまで追いつめ、そこから追い落として、
一気に狩りつくす、といった方法もとっていたようです。

いちどに、ものすごい数のウマを狩るものですから
(100匹以上が、ガケから落とされた跡もあるそうです)、
野原をうめつくすように走っていたウマたちは、
どんどん数がへっていってしまいました。

しかし、あるときヒトは、ウマの前歯のあいだに
なわ(たづな)を通すと、自分の思うように、ウマを
あやつれることに気づいたといいます。

そして、ウマを大人しくさせ、あやつる方法を見つけたヒトは、
この生きものを自分の手元で飼いはじめ、
ウマは、いまでも重要とされる「家畜」になりました。

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ある歴史学者の先生は、もし、人類が、
このウマのあやつり方を発見しなかったなら、
ずいぶんむかしに、ウマは人間によって
食べつくされてしまっていただろう、とおっしゃいます。

じっさいに、アメリカ大陸では、ずっとむかし、
野生のウマは絶滅してしまいました。

このウマたちが、死にたえてしまったのは、
世界じゅうを移動していた人間が、
アメリカ大陸にやってきた、およそ1万年前ごろ。

ウマ絶滅の理由は、いろいろ考えられていますが、
いまは、ヒトが狩りすぎたのだ、という説が有力です。

ともあれ、ヒトのそばにいる生きものがあらわれ、
私たちの生活は、家畜の近くで暮らすことが、
当たり前のものになっていきました。

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しかし、このことが、ヒトに、新たな試練をもたらします。

もともと、野生の動物がもっていた病原体(ウイルスなど)が、
ヒトの社会に、つぎつぎと、はいりこんできたのです。

ジャレド・ダイヤモンドが「家畜のくれた死の贈り物」と
表現する、さまざまな病気が、人類をおそいはじめました。

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いまも人間に身近であり、たいせつなパートナーとなった
イヌからは、おそろしい感染力をもつ「麻疹(はしか)」が。

畑をたがやす労働力になり、乳や肉も手に入る、ウシからは、
人類をいくども危機においやった「天然痘(てんねんとう)」が。

かんたんに飼うことができ、肉や卵が手に入る、アヒルからは、
私たちに毎年おなじみの「インフルエンザ」が。

たくさんの肉がとれ、おとなしい性格の、ブタからは、
いまなお年間20万人が亡くなる「百日咳(ひゃくにちぜき)」が。

私たち人類の社会に広がっている、さまざまな感染症が、
「牧畜」によって、逃げられない、身近なものとなったのです。

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ただ、こうした感染症も、ヒトの数が少なければ、
小さな村や、その土地だけの病気で終わったのかもしれません。

しかし、定住し、農耕と牧畜をはじめた人類には、
この感染症を、爆発的に広げる条件が、
そろいはじめていました。

狩猟採集のころでは考えられなかったほど、
多くの人間があつまり、ひとつの場所でくらす、
「都市」が、人類の社会に生まれていたのです。

次回のおはなしに、つづきます。

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  本のおすすめ
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ジャレド・ダイヤモンド著、倉骨彰訳
 『銃・病原菌・鉄』
(上下巻、草思社) 
 ※第9・11章で、人類と家畜、感染症のかかわりが語られます。
 

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