ヨハネ通信

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ヨハネ研究の森ニュースレターより 「人類史のはなし(5)」

全国的な休校期間中、週に2回発行されている
ヨハネ研究の森ニュースレターより、人類が自ら
食料を生産しはじめたことの影響についてのお話です。

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 人類史のはなし ――「農耕」と病―(ニュースレター第7号より)
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前回は、私たち人類が、自然からあたえられる食べものを
ただ待つのではなく、「農耕」や「牧畜」によって、
食べものをつくりだしはじめたことを、おはなししました。

それよりむかし、ヒトが、狩りによって生きていたころ、
食べものは、すべて自然から、あたえられるものでした。

毎年、おなじ時期になると、ヒトが去年たくさんとった
けものや木の実が、またふえて、目の前にあらわれます。

狩猟採集民は、その自然のすがたに、自分をこえた
大きな力を感じ、感謝をささげていたのです。

「北米インディアンの古老に弟子入りして猟師の修行を積んできた人。
 文化人類学者・山口未花子さんに聞いた「大好きな動物たち」のこと。」
(ほぼ日刊イトイ新聞、インタビュー全4回中の第2回)
 ※動物にむけた人間の敬意と、生命のふしぎな感覚が語られます。

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しかし、あるとき、ヒトたちは、自然の力を利用し、
自ら食べものを生みだそうとするようになりました。

それは、世界中へ広がり、いま、70億の人類が
生きていくために、欠かせないものになっています。

しかし、「人類の知恵の結晶」ともいわれる農耕は、
私たちヒトに、新たな苦しみも、もたらしました。
そのひとつが、病(やまい)です。

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「農耕」によって育てられる、イネやムギなどの
穀物(こくもつ)は、「主食」とよばれます。

いまの世界で、私たちヒトが生きるエネルギーの
おおもとになっているのが、この「主食」です。

みなさんのなかにも、食堂で、どんぶりに山ほど
ご飯をよそって食べている人が、たくさんいますね。

ご飯やパン、うどん、そばなどを食べると、
なんだか、体を動かす元気が出てくるでしょう。

この「主食」になる、イネなどの植物は、その実や根に、
たくさんのエネルギーを、ためこんでいます。

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「農耕」のもっとも大きな、欠かせない役割は、
この「主食」を、たくさん育てることです。

いま、世界には70億ものヒトが生きています。
もし、みんなで狩りをして暮らしたら、地球上で育った
けものや木の実は、すべて食べつくされることでしょう。

これだけヒトがいて、地球にまだ食べものがあるのは、
「農耕」によって「主食」がたくさん生みだされ、
それが私たちへと、とどけられているからです。

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しかし、たくさんつくった穀物は、よそに運ぶまで、
どこかに集めたり、ためておかなくてはなりません。

すると、おなかのへった小さな動物たちが、
それをねらって、あちこちからやってきます。
とくに有名なのは、ネズミです。

小学生のころ、むかしの日本でも、お米をためておく
「高床式倉庫」には、「ネズミ返し」がついていた、
と習ったことはありませんか?

「はるか昔の建物」(NHK for School )
 ※高床式倉庫や、ネズミ返しの復元映像が見られます。

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ネズミの体には、ノミやダニも、すみついています。
こうしたネズミや、ノミ、ダニが、人間の世界に、
「感染症」を、ばらまきはじめました。

ニュースレターの第1号でお知らせした「ペスト」も、
このネズミによって、ヒトにうつる病気です。

ペストだけではありません。ダニからうつる
「ツツガムシ病」も、命にかかわる、おそろしい病です。

ダニのなかまである、ツツガムシにさされた人は、
体じゅうに赤いぶつぶつができ、全身がだるくなります。

やがて、熱が出て、意識がもうろうとし、
ひどいときには、そのまま亡くなってしまうのです。

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この病気は、日本でも、農業にかかわる人びとを苦しめ、
たくさんの人たちを、死においやってきました。

ひどいところでは、数年間のうちに、この病によって、
一家が全滅してしまったこともあるといいます。

しかも、この病気は、明治時代になるまで、原因もわからず、
治せる薬が明らかになったのも、ずっとあとになってからなのです。

それまでは、まったく手のうちようのない、なぞの病気でした。

小林照幸『死の虫 ツツガムシ病との闘い 』(中央公論新社)
 ※病のおそろしさと、それに立ち向かう研究者の姿が描かれます。

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しかも、農耕でふえた病は、これだけではありません。

農作物をそだてるために、水のそばで暮らす人びとには、
水にひそむ寄生虫からうつる病気も、おそいかかります。

とくに、おそろしい寄生虫として知られるのが、
「住血吸虫(じゅうけつきゅうちゅう)」です。

かつて、日本の山梨にある甲府盆地でも、数百年、あるいは
もっと長いあいだ、なぞの病がはやりつづけていました。

農耕にたずさわる人びとの、おなかがふくれ、
動けなくなり、そのまま亡くなってしまうのです。

ふしぎなことに、この病気にかかるのは、農民だけ。
しかも、とくに病気にかかりやすい村が、いくつもありました。

結婚して、そうした病気になりやすい村にとつぐ女性は、
「棺桶(かんおけ)を背負っていけ」といわれたといいます。

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そのころ、飲み水に毒がある、と思っている村もあれば、
あそこの田んぼに入ると病気になる、という村もありました。

しかし、そこに住むからには、水を飲まねばなりません。
そして、「腹がふくれるのが怖くて百姓ができるか」と、
みな田んぼに入り、病にかかって、亡くなっていきます。

この病気も、ずっと、原因がわかりませんでした。
水中の貝にひそむ、「日本住血吸虫」が原因だとわかり、
日本で感染者がいなくなったのは、1996年だとされています。

はじめて記録にのこった感染(1580年ごろ)から、
じつに400年も、人びとは、この病に苦しみつづけたのです。

そして、いまでも、世界では、1年間に20万人もの
人びとが、住血吸虫によって命をうばわれています。

「地方病との斗い-第一部 水腫脹満-」(NPO法人科学映像館)
 ※白黒映像ですが、病のおそろしさがわかる、貴重な作品です。

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こうした、おそろしい病に苦しめられ、
その場所にいれば、病気になるとわかっていながら、
農耕民は、自分の住む土地から、逃げられません。

もし、遊動する人びとであれば、こうした病のおきる
場所から、さっさといなくなってしまったことでしょう。

私たち人類は、定住し、農耕をはじめて、
たくさんの食べものを生みだすようになりました。

しかし、それとひきかえに、いままで経験したことのない
たくさんの病をも、いっしょに抱えることになったのです。

それは、「牧畜」についても、おなじでした。
次回のおはなしに、つづきます。

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  本のおすすめ
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ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之訳
 『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(河出書房新社)
 ※農耕は、人類の幸福の源か、苦しみの元凶かが論じられます。
 

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