ヨハネ通信

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ヨハネ研究の森ニュースレターより 「人類史のはなし(4)」

前回より引きつづき、ヨハネ研究の森ニュースレターより、
それまで自然の恵みで生きていたヒトが、やがて
自ら食料を生産するようになり…という記事のご紹介です。

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 人類史のはなし ―定住と「文化」―(ニュースレター第6号より)
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前回は、じつは心地よい生活だった「遊動」をやめ、
ガマンのいる「定住」を選んだ人びとが、いまの世界では
大きな力を手にしている、とおはなししました。

人類のなかに、「定住」をはじめたヒトあらわれたのは、
いまから、およそ1万年ほど前のことだといわれます。

その理由は、ちょっとだけヨコにおいておき、今回は、
感染症にもかかわる、それから先のおはなしをしましょう。

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さて、定住をはじめた人類に、たいへんな事件がおきます。
ヒトが、自分の力で、食べものをつくりはじめたのです。

あんまり大したことではないと、みなさんは思いますか?
それが、人類史としては、大事件なのです。

それまで、ヒトは、自然の力によって、どこかで自然に
そだった食べもの(けものや木の実など)を、さがし、
狩りをしたり、採集したりする生活をおくっていました。

だから、かつての人類にとって、食べものとは、すべて
自然にまかせ、あたえられるものだったといえるでしょう。

ところが、定住をはじめた人類のなかに、自然の力を利用して、
自分で食べものをふやそう、とする人びとがあらわれます。

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大地をたがやし、そこに、ムギやイネ、トウモロコシなどの
植物をうえて、育て、収穫する「農耕(のうこう)」。

ウシやウマ、ヒツジやブタ、ヤギなどを、人間にならして
家畜にし、育て、ふやす「牧畜(ぼくちく)」。

あわせて「農業」といわれることもありますが、
いまは「農耕・牧畜」としておきましょう。

このように、ヒトが、食べものを自然まかせにせず、
みずから自然にはたらきかけ、生みだしはじめたことは、
人類の未来に、とてつもなく大きな影響をあたえました。

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「農耕」からは、お米やパンといった主食や、さまざまな野菜など、
私たちの生活に欠かせない、たくさんの食料が生みだされます。

「牧畜」からは、牛・豚・羊・鶏などのお肉や、あるいは、
ミルクやチーズといった、乳製品が手に入るでしょう。

家畜になったウシやウマは、畑をたがやす手伝いをしたり、
ヒトの乗りものとなって、活躍することもありました。

それに、私たちが身につけている服の多くも、綿花や羊毛など、
農耕・牧畜でつくられるものを素材にしていますよね。

◇─────────◇

ヒトは、農耕によって農作物をつくり、牧畜で肉や乳を手に入れ、
さらには産業をおこして、さまざまな商品をつくりはじめます。

もう、自然まかせにしなくても、ヒトは、食料やモノを、
必要に応じて、生みだし、つくりだせるようになりました。

それを、世界中で売り買いすることで、食料やモノにあふれた、
豊かな生活をつくりあげようとしているのが、いまの人類です。

そういう見方からすれば、いまの人類の「勝ち組」は、
「定住・農耕・牧畜」をしてきた人びとにほかなりません。

みなさんも、そのひとりなのではありませんか?

残念ながら、遊動して毎日をすごし、狩りや採集で
生計をたてる狩猟採集民(しゅりょうさいしゅうみん)は、
いま、弱く、苦しい立場においやられています。

◇─────────◇

だから、自分たちが祖先からうけついできた「定住」、
そして、大地に根ざしておこなう「農耕」や「牧畜」こそ
すぐれた生活なのだと、私たちは考えて、うたがいません。

そして、「遊動」は、貧しく、不潔で、おくれていて、
おとった生活スタイルだと、みんなでいうのです。

それが、いまの人類の、常識なのだといえます。
そのことが、よくあらわれているのが、
「文化(culture、カルチャー)」という言葉でしょう。

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「カルチャーセンター」という場所をしっていますか。
スポーツや音楽、アートにダンス、さらには文学まで、
すすんだ「文化」的なことを教えてくれる場所です。

この「文化(カルチャー、culture)」ということば、
英語だと、「耕す(カルティベート、cultivate)」という
ことばと、よく似ていると思いませんか?

「文化」と「耕す」、この二つの言葉は、どちらも、
同じ言葉がもとになっているといわれています。

だから、もともとヨーロッパでは、
「文化」と「耕す」ことには、
とても近いイメージがあるというのです。

人類史を研究する先生たちのなかには、このことが、
「農耕こそ、ヒトの知恵が生みだした最たるもの」という、
西洋の定住民の思いをあらわしている、という方もいます。

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いまや、ヒトの総人口は、70億人以上をほこります。

チンパンジーやゴリラなど、ほかの霊長類とは
くらべものにならないほど数を増やして、
世界中にちらばっているのが、私たち人類です。

そんなことができた理由は、たしかに、
定住と、「農耕・牧畜」にあるのでしょう。

でも、それは、ただ幸せなだけの
道のりだったのでしょうか。

農耕と、牧畜の広がりは、私たちヒトに、
新たなわざわいをもたらすことにも、つながりました。

人類が定住をはじめて以来、世界で広がりつづける
感染症も、その大きなわざわいのひとつだといいます。

次回のおはなしに、つづきます。

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  WEBのおすすめ
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山極壽一(霊長類学)「サル、ゴリラ研究から現代社会を考える」
(ナショナルジオグラフィック「科学者と考える 地球永住のアイデア」)

 ※農耕が変えた、ヒトの意識についても、ふれられています。

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  本のおすすめ
─────────◇■
西田正規『人類史のなかの定住革命 』(講談社学術文庫)
 ※ヨハネ生と、高原で合宿をしてくださった先生のご著書です。
 

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