ヨハネ研究の森ニュースレターより 「人類史のはなし(3)」
現在、週に2回配信されているニュースレターより、
今回は、霊長類の本来の生き方、「遊動」を
見なおしてみよう、という記事をご紹介いたします。
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人類史のはなし ―「遊動」こそ、理想のくらし?―(ニュースレター第5号より)
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前回は、「定住」をはじめた私たち人類と、感染症、
そして、トイレの大問題についてお話ししました。
あんがい、「定住」のほうが、フケツな生活かも…と、
感じたひともいるのではないでしょうか。
これまで、森のなかを歩きまわり、移動しながら暮らす
「遊動」は、あまり衛生的でない(フケツな)生活を
していると、思われがちでした。
しかし、近年の研究では、遊動して狩りをする人びとが、
私たちが思っていたよりも、はるかに健康に、元気に、
毎日を暮らしていたのではないかといわれています。
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たしかに、けものの肉や血からうつる、いくつかの
感染症は、狩りをする人びとをなやませていたようです。
病気のために、多くの人が亡くなることもあったでしょう。
しかし、病気の種類そのものは、いまよりも少なく、
肥満(ふとりすぎ)や糖尿病といった、私たち現代人が
苦しんでいる病にも、かかることがなかったといいます。
「じめじめした森や洞くつで、みんなが感染症に
なやまされながら、つらい生活をしている」
そんな、遊動生活への古いイメージは、
どうやら、まちがっていたようなのです。
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たしかに、考えてみれば、遊動生活をおくっている
ゴリラやチンパンジーが、そんなにつらい毎日を、
苦しみながらすごしているように見えるでしょうか?
人間に近いといわれるチンパンジーは、移動しながらくらし、
毎日、あたらしいベッドを、木の葉と枝でつくります。
この木の葉のベッド、とても寝ごこちがいいそうですよ。
あまりの心地よさに、最近、「人類進化ベッド」という、
新たな形のベッドが開発されてしまったくらいです。
◇「毎日ベッドを新調するチンパンジーからヒトは何を学べるか」
(朝日新聞GLOBE)
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また、古いベッドを使わないのは、排泄物などで
よごれたりするからではないか、ともいわれています。
よごれても、どうせ次の日は、新しい寝どこをまた
作るのですから、まったく気にしなくていいのですね。
ゴリラやチンパンジーを研究する「霊長類学」の先生たちは、
こうした「遊動」する生き物たちの生活スタイルにたいして、
「とてもよいもの」という感想をもっています。
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みなさんは、部屋やベッドがよごれてしまったり、
モノでごちゃごちゃになったりすると、
「かたづけなさい!」「掃除しなさい!」と、
おこられてしまうことでしょう。
でも、遊動して暮らしている生き物たちは、
そうじや片づけなんて、気にしなくていいのです。
だって、よごれたら、別の場所にいけばいいのですから。
いや、それはチンパンジーやサルだからで、
人類は、そうはいかないよ、と思いますか?
たしかに、いま、遊動して暮らす人類は、ほとんどいません。
世界じゅうの国が、遊動していた人たちを集めて、
定住するように、いいつけてきたからです。
それでも、ほんの30~40年ほど前までは、この世界に、
遊動生活を、ほんとうに続けていた人たちがいました。
タイの「ムラブリ族」などが、それにあたります。
◇世界ウルルン滞在記(ムラブリ族)(2007年4月15日)
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ムラブリ族は、タイで定住して暮らす人たちから、
「黄色い葉の精霊(ピー・トン・ルアン)」と
よばれていました。
ムラブリの人びとは、そのあたりに生えている
バナナの葉っぱで、かんたんな家をつくり、その葉が
かれて黄色になるころ、またどこかへ行ってしまいます。
そして、彼ら、彼女らのすごしたあとには、
黄色い葉っぱの、家のあとが残っているのです。
緑の葉っぱが、黄色くなるまでは、わずかに一週間ほど。
その家のまわりに、食べものがなくなってしまうころに、
ムラブリの人たちは、別のところへ移動していきます。
人間が、遊動しながら暮らすことは、けっして、
夢やまぼろしのような話ではありません。
たしかに、ヒトは、そうやって生きていたのです。
◇大妻女子大学博物館
特別展「文明は人の身体から何をうばうのか」
※ムラブリ族の、バナナの家の再現写真が見られます。
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「遊動」する人びとは、排泄物やゴミのように、
いやだなあ、と思う、不快なものには、近寄りません。
それに、おそろしい思いをした場所や、怖い敵がいる、
危険なところからは、逃げてゆきます。
いっぽうで、私たち「定住」するヒトは、そうはいきません。
排泄物や、出つづけるゴミや、近くに住むキライな人や、
いやなもの、不快なものから、けっして逃げられません。
地震や台風、あるいは、私たちが苦しむ感染症のような
ひどい災害にあい、住んでいるところが危険だとわかっても、
なかなか、逃げたり、離れたりすることができないでしょう。
どれも、人類のもともとのすがた、「遊動民(ノマド)」なら、
すぐに、その場からいなくなるだけで、すむ問題なのです。
「遊動」こそが、私たちヒトほんらいの、自然で、
気楽なライフスタイルだったのかもしれません。
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だから、みなさんも、いっそ「定住」をやめて、
ちょっと、「遊動」生活をしてみたいと思いませんか。
いやいや、遊動する生活なんて、お風呂もなさそうだし、
スマホはいじれないし、食べものは少なそうだし、
そんな、おくれた、原始的な暮らしはいやだ!
という人のほうが多いでしょうか。
もちろん、それが、「当たり前」の感覚なのでしょう。
なぜなら、いま、「先進国」とよばれ、ゆたかな食料や、
きらびやかなモノにかこまれながら、人類社会を動かしている
国の住民は、みな「定住」しているのですから。
極端ないいかたをすれば、いまの世界で「勝ち組」なのは、
「遊動」民ではなく、「定住」民なのだといえます。
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なぜ、人類は、身軽で、心地よいはずの「遊動」をやめ、
ガマンして暮らす「定住」を、はじめたのでしょうか。
そして、「定住」する人びとは、どのようにして、
人類の世界で、大きな力をもつようになったのでしょう。
次回のおはなしに、つづきます。
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本のおすすめ
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◇座馬耕一郎『チンパンジーは365日ベッドを作る 』(ポプラ新書)
※遊動するチンパンジーから、かつての人類の姿が想像できます。