ヨハネ研究の森ニュースレターより 「人類史のはなし(1)」
ヨハネ研究の森コースでは、全国的な休校の期間中、
保護者のみなさまと、ヨハネ生全員にむけて、
週2回、ニュースレターを配信しています。
当コースでは、「人類史」をテーマにした課題研究や、
オンラインでの学習サポートなどを実施しながら、
この休校中にも、ひとりひとりが知的な関心を
いだきつづけられるよう、試行をかさねてきました。
ニュースレターは、こうした試みの一環として、
「人類史」研究のおもしろさを、みなで共有し、
あわせて、さまざまな「学び」の情報を、広く
お伝えするために配信されているものです。
今回は、このニュースレターの記事のなかから、
「人類史のはなし ―「定住」と「遊動」―」を、
みなさまにもご紹介いたします。
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人類史のはなし ― 「定住」と「遊動」 ―(ニュースレター第3号より)
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世界に危機を引きおこしている、新型コロナウイルスをはじめ、
人類は、「感染症」のおそろしさと、となりあわせで生きています。
いったい、「感染症」は、いつから、人間にとって、
これほどまでに、おそろしいものとなったのでしょう。
それは、いまからおよそ1万年前に、私たちの祖先が
「定住」をはじめたときだ、という考えかたがあります。
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かつて、人類は、ひとつのところにとどまらず、
狩りをしたり、木の実や果物を集めたりしながら、
色々なところを移動して、暮らしていました。
このような暮らしかたを「遊動(ゆうどう)」といい、
決まった家をもたず、移動しながら生きる人たちを、
「遊動民(ノマド)」というのです。
パソコンをもって、移動しながら仕事をする人を、
「ノマド・ワーカー」といいますよね?
ちょっと、かっこいい響きにきこえませんか。
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ところが、あるとき、人間たちは、「遊動」をやめて、
ひとつのところで、長く暮らすようになりました。
それが、新たな人類のライフスタイル、「定住」です。
みなさんのなかに、今も「遊動」している人はいますか?
ある主任研究員は、むかし、世界中を遊動していたそうですよ。
でも、みなさんにはきっと、住まいがあって、
そこでだいたい毎日、ごはんを食べ、トイレをすませて、
決まった場所で、ねむっていることでしょう。
それが、人間の、当たり前の暮らしかただと、思いませんか?
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ところが、人類が、この「定住」をはじめたのは、
「たったの」1万年前のことなのです。
1万年前なんて、大昔のことのように感じますね。
それなのに、「たったの」とは、どういうことでしょう?
人類が、「ヒト」といわれる存在になったのは、
今から、50万年ほど前のことだといわれています。
ヒトは、そのころから、じつに49万年ものあいだ、
ずっと「遊動」する生活をつづけていました。
だから、「定住」しはじめた1万年前は、つい最近のことで、
まだまだ慣れない、新しい生活スタイルだといえるのです。
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今でも、ゴリラやチンパンジーなどの、人間に近いといわれる
霊長類の多くが、「遊動」生活をおくっています。
しかし、人類は、それまでの自由な「遊動」生活をやめて、
いろいろガマンしなくてはいけない、「定住」を選びました。
(成長するにつれて、「定住」のつらさがわかりますよ…。)
いまの私たちも、心のどこかで、身軽に、どこでも生きていける
「遊動」の自由にあこがれている、という研究者もいるほどです。
◇山極寿一(霊長類学、京都大学総長)
「AIやITは、ヒトを再び“霊長類の遊動生活”へと誘う 」
(文藝春秋オンライン)
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ともあれ、私たち人類は、その多くが「定住」をはじめました。
そして、そこから人類の社会は、とてつもない発展をつづけます。
すでに世界の人口は、70億人を超え、北から南まで、
地球上のあらゆる土地で、ヒトが暮らすようになりました。
人類の「定住」戦略は、大成功してきたともいえるのです。
ところが、この「定住」こそが、感染症を、
人間にとって、非常におそろしいものにしたといいます。
なぜ、そのように考えられているのでしょう?
次回のおはなしに、つづきます。
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本のおすすめ
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◇山極寿一『15歳の寺子屋 ゴリラは語る』(講談社)
※ゴリラの研究から、人類の本当のすがたにせまります。
◇西田正規、加藤 晋平『森を追われたサルたち』(同成社)
※文化人類学の見地から、「しかたなく」定住する人類を描きます。