丸山茂徳先生特別講義 第一部 「人類の知的体系とはなにか」
2009年10月3日

 このレポートは、2009年10月3日(土)〜10月4日(日)の二日間にわたって行われた講演の概要をまとめたものです。
 講演者の丸山茂徳先生は、地球惑星科学の分野では世界に誇る科学者です。
 現在は東京工業大学の教授として、主に大学院で博士課程の指導にあたられていますが、国内にいるよりは、海外での岩石調査など、フィールド人間として忙しく活動をされています。
 学会への論文提出数では、この領域では世界中でも群を抜き、同領域の研究者達に一目置かれた存在です。
 ヨハネ研究の森は、2003年度の「アルフレッド・ウェゲナーの大陸移動説」の研究活動のときから丸山先生にラブコールを続け、2004年2月にはじめて講演にお越しいただき、その後、継続してお付き合いをいただいています。
 丸山先生いわく、「ヨハネ研究の森に来るときが一番しんどい、しかし、一番充実する日」だそうです。丸山先生が感動されたのは、ヨハネ生が一生懸命メモをとる姿。そして、講演が終わったあと数日して送られてくる大量のレポート。このようなヨハネ生の姿を見て、「日本も捨てたもんじゃない」とまで言っていただきました。

 丸山先生の講義初日は、「人類の知的体系とはなにか 毎日の新聞の内容を体系的に理解するために」というテーマでお話をして頂きました。ボーダレスな社会で生きていくための必修科目です。


- - - - - - - - - - - - - - - - - - -

人類の知的体系とは何か

 現代は、専門化や複雑化が進んでいて新聞に書いてあること全てをきちんと理解することがとても難しい。しかし、これからの時代を生きる皆さんのことを考えると、それではいけません。どうしたら、新聞に書いてあることが分かるようになるのか、それは、「知的体系」を身につけることなのです。
 「知的体系」、これが分かるようになるために学校教育があります。学校は、国語や算数、理科、社会、体育や音楽、芸術というものを通して君たちに社会で生きていくための知恵を身につけさせているのです。しかし、今日本の教育が大きく変化してきています。それはなぜかということを考えると、知的体系が何かということがおのずと分かってくるでしょう。


「ボーダレス」な時代

 文部科学省の学習指導要領が変わってきている最も大きい要因は、日本は日本だけのことを考えているのでは生きていけない時代になった、ボーダレス、ボーダーつまり、国境がレス、希薄になっている時代なのです。
 国境を越えて国を出るということが頻繁に起こるようになりました。人がボーダレス。それだけでなく、食べ物や車といった物もボーダレスになってきています。そして、お金も。外国のお金を簡単に売買することができるのです。四つ目は情報、サモアで大地震が来た、そんなことが一瞬のうちに日本に伝わってくる、こういう時代なのです。
 今、日本という国が生きていくことができるのは外国と商売をしているからです。日本の食料自給率は40パーセントしかありません。これは、そのままだと60パーセントの人が飢えてしまうということ。それでも、みんなが餓死しないでいるのは、車を外国に売って儲けたお金で食糧を買っているからです。
 今まで、日本はすごく豊かでした。しかし、最近、中国が彗星のごとく現れて、ものすごい勢いで経済成長をしています。日本はその中国と競争しなければならなくなってきています。その競争の中で生き残っていくためには、ボーダレス時代の新しい教育が必要なのです。
 ヨハネ研究の森では、横瀬先生を中心にその新しい教育を実践しています。この教育が世界のスタンダードになるか、消えてなくなるかは、すべては皆さんの頑張り次第です。競争相手の中国は本当にたくましい。なぜなら、5000年以上も異民族の中で生きて、生き残って歴史を作ってきているからです。日本はボーダレスの時代の中で生きていくことができるたくましさが必要です。
 そのためには、自分の考えを相手にプレゼンテーションしたり、説得力のある話をしたりすることができるようにならないといけません。ヨハネ生は、話を聞くときにノートを取ってレポートを書きます。
 東京工業大学で僕が講義をしても学生はメモをとりません。レジュメを渡しているから、話しを聞いて、その場は分かったような気になっているけれど、きちんと理解してるかどうかを文章で書かせてみると何も書けません。
 東工大の生徒のレポートを30点とすると、ヨハネ生は90点のレポート書いています。これは自信をもっていいです。慢心してはいけないけれど。
 この中から世界の将来をリードしていく人材が出てきて欲しいと本気で思っています。


学校で何を学ぶのか

 赤ん坊は生まれたときには、何の知識もありません。赤ん坊がお父さんやお母さんの記憶を持って生まれてきたら大変ですよね。何の知識もない赤ん坊が社会で生きていくにはどうしたらいいのでしょうか? ほっといても大丈夫でしょうか? そうではありませんね。そのために学校があるのです。親は子供より先に死んでしまいます。だから、お父さんお母さんがいくら財産があっても、そんなものはたいした役に立ちません。お父さん、お母さんが皆さんに残したいものはたった一つ、それは「一人でも生きていける力」なのです。そのために学校があるのです。
 では、学校は何を教えるところなのでしょうか? 一言で言うと、小学生の段階はまだサルです。中学生になってようやく原始人。サルにしつけをするには、ときには体罰も必要なときがあります。お父さんお母さんに叩かれたときに愛情がこもってるかどうかわかると思うけれど、それは、君たちが社会に出たときに一人で生きていけるようになってほしいという思いがこめられているのです。
 共同体の中で生きていくことができるようにならなければなりません。共同体にはルールがあります。人間は、一人で生きることはできない。みんなで作り上げた共同体の中で生きていくしかないのです。
 共同体のルールの中に、「法律」と「道徳」というのがあります。法律は最低限の道徳と言ってもいいでしょう。成熟した社会人になるためには、人の心の痛みや隣の人が何を欲しているかがわかるようなにならなければなりません。そして、そういうものは頭ではなく、体で理解するものなのです。
 人の目や顔つきを見て、その人の心がわかるようになることが非常に重要です。テレビ番組の中で、東京大学を卒業した女優が、難しい漢字を書けるかどうかというのを放送していることがありますが、そういうものよりも、ガッツ石松の一言のほうがよほど重いです。
 お父さんやお母さんの一瞬の顔のゆがみを見て、そこにあるものを読み取れるようになって欲しい。
 社会は、学校や家のような温室ではありません。その大変さが身にしみて分かっているお父さん、お母さんは、君たちが社会に出たときに、リーダーとして生きていくことができるようになってほしいと願っているのです。
 一番皆さん一人一人を大事に思ってくれているのはお父さんお母さんです。みんなが本当に大人になった瞬間というのは、親を見て「かわいそうだ」と思ったときかもしれません。そうなったとき、もう教育はいりません。でも、そのときまでは辛抱して親の言うことや先生の言うことをよく聞いて学ぶことが必要です。


人生のゴールを考える

 学校で算数、数学や国語、理科、社会といったものを何のために学ぶのでしょうか? どこにゴールがあるのか、ゴールまであとどのくらいか、そういうことが分からないと不安だし、とても辛いものです。あと少しだと分かったら頑張れます。自分の長い人生の中の今どこにいるのか、そして、そこからどこへ行くのかを自分で考えることが大事です。  今、社会自体がどんどん変化しています。もうすぐ成長の限界が来ます。環境問題や地球の仕組み、こういう社会全体の仕組みを含めて、みんなの未来にそれがどういう影響を与えるのか。そういうことを体系的に知ることが必要なのです。それが全体の体系で、そういうことが分かっていると、誰がいつどんな問題にぶつかっても、非常に的確に、今なにをどのように考えて取り組めばよいのか、そういうことについて見通しを持つことができるようになる、そういう人間になっていって欲しいと思っています。