サマースクール2009 「『生命』と『人類史』」
2009年7月20日


 丸山茂徳先生 公開セッション
 プルームテクトニスクを提唱した地球惑星科学者の、東工大教授丸山茂徳先生をお迎えしてサマースクール2日目が始まりました。丸山先生は地質学がご専門ですが、今回は、宇宙と地球環境の変化の歴史にもとづいて「生命」と「人類史」についてお話して下さいました。


地球は生きているか

 地球を「ガイア」と呼ぶことがあります。ガイアとは地球が生命体であるという発想です。それではみなさんは地球が生きていると思いますか。マントルは大きく動いている。だから生きているように感じる。このような意見があると思います。では、地球は死ぬでしょうか。かなりの時間が経てばマントルの流れはなくなります。つまり地球の活動は止まり死ぬでしょう。
 しかしもっと早い時期に死ぬと考えている人もいます。それは地球に人が住めなくなるという意味です。人はどちらの意味でガイアという言葉を使っているのでしょうか。人間がいなくても地球には全く影響はありません。しかしいつの間にか人間は傲慢になり、自分たちが地球の頂点に立っていると思い込んでいます。
 今日は「生命とは何か」と「人類の歴史一万年」について話をします。また今世紀中に起こると予想されていることも話します。そして皆さんには近い未来を予想して、その人類史の物語を作ってもらいたい。


生命とは何か

 生命体とは何でしょうか。外と仕切る膜があり、自己複製をし、代謝反応があるものが生命であるという定義があります。しかしウィルスは生命かと問われると統一見解がないのが現状です。
 深海の海底火山から噴き出す有毒な硫化水素の中で生きるバクテリアがいます。太陽光も酸素もない世界でも、酸化還元勾配があれば、つまり、電子の流れさえあれば生物活動が可能なことを示しています。現在、ここまではわかってきていますが、一番最初の生命を科学的に合成した人はまだ一人もいません。


生命はどこからやってきた

 宇宙は137億年前に生まれました。生まれてから6億年後の宇宙には有機物があったことが観測で分かっています。これはアミノ酸の元となる物質です。
 それを根拠として「この宇宙ではビッグバンが起きたときに一度だけ生命が誕生してこれが拡散した」という説があります。一方、「いつでもどこでも生命が誕生している」という説もあります。
 現在、宇宙ステーションの外壁に生命がいないか。また遠くから人間のような高度な文明を持った生命体が電波を発していないか。これらのように生命の起源を求めて日々、観測が行われています。


生命の進化はいかに起きたか

 生命の進化で四つの大きなイベントを挙げるとすれば、生命誕生、真核生物の登場、動物の登場、人類の登場です。
 真核生物と動物の誕生には共通のシナリオがあると考えます。宇宙線が地球の磁場によるバリアを突破して大量に降り注ぐ。次に雲が生じて寒冷化して地球が全球凍結する。そして寒冷化と大量の紫外線によって多細胞化、細胞内共生、突然変異が引き起こされる。これが共通のシナリオです。
 一方スターバーストによって大量の宇宙線が発生したことが生命の誕生に影響を与えていると考えられています。この事件は40億年の間に二度ありました。
 地球が現在のような生命あふれる惑星になるためには、条件が14個ほどある。その条件が上手いタイミングで重ならなければ人類は誕生しない。この広い宇宙には、千億の銀河があり、それぞれ千億の星を持っているが、その条件を満たした惑星が地球以外にあるかどうかまだ分かっていません。


人間の歴史は何が動かした

 人間が他の生物と異なるところは何でしょうか。もちろんいろいろあります。ただ一番の違いは脳を使うこと。人間は様々なことを考え出しましたが、自らの繁栄を築くために地球に対して重大な罪を犯しました。
 それは、一万年前、農業と牧畜をはじめたことです。人間は森林を切り開いてそこを耕地と放牧地にして、生態系のバランスが崩してしまった。そうして、人口を爆発的に増やすが、人口が増えれば、食料の需要が増える。それはさらに農地を増やさなければならないという圧力となる。
 しかし、洪水、寒冷化、乾燥化などの自然の変化で、人間は食料危機を何度となく経験する。結果、食べるものを求めて移動を繰り返した。この民族の移動が、戦争を生みました。
 この人口圧こそ人類最大の問題と認識する必要がある。黒海沿岸の農業地帯、シュメール人の都市国家、四大文明といった古い時代はもちろん産業革命後の世界、そして現在でも、人口圧による人の移動と戦争が絶えないのです。


人類の物語を描いてみよう

 人類史の物語は、ウェルズの名著『世界史概観』がありますが、気候が文明を支配したという視点など、いくつか重要な視点が欠けています。農業のはじまりから近未来と遠未来を含めた9つの物語をアウトラインとして、私が提起します。ヨハネ研究の森のみなさんには、この物語を作り上げて欲しい。


人間の最後の挑戦

 人類は資源を用いて膨大なエネルギーを取り出し、空前の豊かさを享受している。しかし、その資源は枯渇することが分かっている。成長の限界、これが2020年問題です。
 この問題をクリアするために人類は最後の挑戦をしています。現在地球の生態系は太陽エネルギーの1%を利用しています。そのエネルギーの利用率を2%にしようという試みです。いわゆるグリーンニューディール政策です。
 しかし、私はこれは上手くいかないのではないかと思っています。なぜなら、それは生態系を大きく変えることになるからです。
 2050年以降、人口が激減していくという破滅的状況を避けることができるかどうかは、若い皆さんにかかっています。
 そのための一つのキーは人類史の物語をみんなが共有して、人類が一体となって対策を講ずることです。


ヨハネ生の皆さんへ

 私は社会に貢献し、何が残せるかということで、本を出したり講演活動をしたりしています。しかし、将来を担う子どもたちに自分の思想を直接の対話で伝えられるのは、唯一このヨハネ研究の森だけです。
 昔の松下村塾が日本の未来を担ったように、ここ暁星国際学園の君たちがより大きなスケールで未来を担ってくれる事を心から期待します。