研究室訪問記 4
- ヨハネ研究の森コースだからできる学び
文/ヨハネNEWS編集部
 大石ユニットでは、研究員の背景が多彩です。とりわけ、主任研究員自身、去年の五月まで約14年間に わたり外国暮らしをしていたこともあるせいか、大石ユニットの現在の研究員8名のうち、3名がいわゆる 「海外帰国子女」です。外国帰りでない研究員も、個性豊かな人々がそろっているとのこと。

[編集部]:このユニットでまず気になるのが、机の配置です。あちこちに、ばらばらに置いてあります。 また、植木鉢の使い方もまちまちな感じで、ある研究員の席の側には何もおいてないかと思うと、別の 研究員の席は、木の茂みの陰に隠れているようで...。

[大石]:机の配置は、研究員が話し合って決めたものです。今年度の2学期にこのユニットが結成されて以来、 これまで数回変わりました。全体の話し合いによって大まかな位置を決めたあとは、個別に話し合って 微調整をしました。植木鉢の置き方も同様です。要は、それぞれの研究員が、自分にとって居心地のいい 居場所(ニッチ)を創ればいいと思います。整然と机が並んでいると見た目は、特に訪問者にとって、 気持ちいいかもしれません。しかし、それが、いつもここにいる研究員たちにとっても同じだとは限りません。

[編集部]:そこには何か特別の考えがあるのでしょうか?

[大石]:「自己組織化」ということを考えています。それは、あらゆる存在には、それ自身を組織する力が 内在しているという考え方です。これを組織にあてはめると、初めはまとまりがなくて混沌としていた 人間集団も、次第に形を整え、秩序が生まれてくるということです。また、集団が一時的に乱れたり、... 「ゆらぎ」とも言いますね、混沌状態に陥っても、やがて内部から秩序が回復されると考えます。 そうなるのは、人間集団の中に創造的な力が働いているからで、この同じ力が人間個人を成長させるし、 宇宙も混沌からコスモスに変化していくのだと思います。 このユニットの運営についても、この創造的な力に対する信頼が根底にあります。ただ、こう言ったから といって、主任研究員はただ見ているだけというのではありません。ファシリテーターとして、この創造的 な力がユニットや個々の研究員の中で働きやすくなるためにその条件を整える努力をしているつもりです。

[編集部]:その考えは具体的には、...机や植木鉢の配置のことは分かりましたが、他にどのようなところに 反映されているのでしょうか?

[大石]:例えば、研究員との対話があります。私は外国暮らしが長いせいか、自分の価値観を一方通行で相手に 伝達する「説教」という方法には違和感があります。むしろ、個々の研究員から学びたいと思います。彼ら・ 彼女らの中で起こっていることを知りたいと思います。それには、「傾聴(アクティブ・リスニング)」と いう方法が有効です。価値判断せず、またアドバイスするためでなく、自分の心をいわば無にして、ラジオの 波長に合わせるようにして、研究員が語ることを100パーセント受け取ろうとします。言葉以外のメッセージも 含めて。また、必要に応じて、問いを発します。それは無限の好奇心を抱いて相手のことについて尋ねることで す。「開かれた質問」とも言いますが…。
 こうすることによって、研究員の中で起こっていることがその背景や文脈も含めて理解できます。また、 研究員がある問題に直面していたら、私の問いかけを契機として、研究員が自ら答えを見つけることもあります。 私がアドバイスすることも確かにあります。しかし、それを受け入れるかどうかは、最終的に研究員の自由 です。というのは、人は自由に行ったものしか本当に身につかないと思うからです。人は、誤る自由ももって います。そして、誤りから学べばいいと思います。それには時間がかかるでしょうけど…。

[編集部]:う〜ん。もっと具体的には、どうされているのでしょう?

[大石]:私自身、社会科学の研究者であることから、研究を行うことがいかにエキサイティングなものであるか、 研究員が少しでもわかってくれたらと思います。興味の掘り起こしですね。
 私の方法は、研究員があるテーマに興味を持っていることがわかったら、次のことを考えてもらいます。
(1)私にとって、そのテーマのどこが面白いか。
(2)私は、そのテーマについて既に何を知っているか。
(3)私は、そのテーマについてさらに何を知りたいか。これらについてブレーンストーミング方式で 話し合うことにより、おぼろげながら探求する対象の「形」が見えてきます。
 ここからは、研究員にとって、この「形」がはっきり見えるようになることが、研究の目標になります。 その過程で、はっきり見えるようになるための「レンズ」として適当な理論を採用することが必要に なるでしょうし、どのような方法を用いるかも決める必要があるでしょう。こうして研究を進め、はっきり 見えるようになったものを、レポートや論文として表現します。これは、自分の知性の目で実際に見たものを 書くという意味で、自己表現になります。とても楽しいものです。 年齢にもよりますが、この過程を全部通る必要はありません。研究の醍醐味のほんの「まえあじ」だけでも 知ってもらえればそれでいいと思います。

[編集部]:それでは、ユニットの各研究員が実際にしていることを少しばかりお話しください。

[大石]:高2のY君は、映像関係に興味をもち、PCで映像作成ソフトを使って技術を磨いています。2学期に 行った「紛争解決コース」の教材となる映像も他の研究員と共同で作成中です。
 高1のAさんは、青少年期における人間関係それに自立した個の発達に深い関心を抱き、「ヨハネ研究の森」の 人間関係を対象として深い観察と思索を行っています。
 中3のM君は、江戸時代の地域循環のシステムと心理学、特に家庭内暴力のことについて研究しています。 短いレポートの積み重ねからそのうち素晴らしい論文が生まれることでしょう。
 フランス帰りの高1のN君は、将来、得意のフランス語を生かしてファッション関係のビジネスを始めたいと いう希望をもっています。そのうち、ビジネスに関するプロジェクトを立ち上げるのではないでしょうか。
 ロンドン、ヴァンクーバー、ニューヨークと長い海外生活を体験した高2のS君は、VIPの警護を担当する レベルの高いボディガードになることを夢見ています。その実現のための努力を続けています。
 高2のMさんは、天地創造の始めに言葉(ロゴス)があったというヨハネ福音書の冒頭の言葉にあるように、 言語がもつ秩序を形成する力、とりわけ人間を形成する力について研究しています。
 アメリカに長く住んでいた中3のSさんは、歌やダンスなど体を動かすことが大好きです。今、自分自身を トータルにコーディネートして、生産的なティーンエイジャーになることに燃えています。
 中1のK君は、軍艦や空母が大好きで、海戦のシミュレーション用のミニチュアを作ることに余念がありません。 旧海軍随一の知性派提督と言われた井上成美や彼が指揮した珊瑚海海戦のことなどにも興味が広がるといいですね。
これからパワーポイントなどの媒体を使って、各自の追求の途中経過を発表してもらいたいですね。ユニットでの 集まりはその意味で、自己表現のいい練習の場となります。
 このようにさまざまな個性がいるユニットですから、ユニットのまとまりとしては、日本のような型から入って いく方法より、目的から入っていく方法を取っています。一見雑然としていますが、目的において一致させたいですね。 その目的とは、自分なりの方法、...それは、有機体としての自分のリズムや感じ方に基づいているのですが、 その自分なりの方法によっていかなる事態に対応できる。自分独自の判断力を持っている。人のいうことを鵜呑みにしない。 群れない。通常は自分の個別の目的を追求しているが、必要に応じて個人として自発的に協力できる。 連帯できる。まあ、こういったところです。

[編集部]:どうも有難うございました。

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